テル・エル Teruel
アラゴン地方:テルエル県
標高916m.
人口31000人
概要
サラゴザから南へ約180km、ヴァレンシアからは北西へ125kmの距離にある。
アラゴン地方南部テルエル県の県都で、トゥリア川 Rio Turiaの流れる大きな地溝によって高原から孤立した台地にある。激流にえぐられた黄土色の小山がいくつもそびえる風景のために、この景勝地はまさに奇怪千万といった印象がある。
テルエルはアラビア語で雄牛。その昔、この町のイスラム教徒たちはキリスト教徒たちの攻撃を迎え撃つため雄牛を放ったと伝えられている。
アラゴン王国は、この地方を支配していたイスラム勢力を追払い、支配を固めていった。
16世紀初期までテルエルにはイスラム教徒とキリスト教徒が混在していて、残留していた、高い文化と技術力を持ったイスラム教徒たちが、キリスト教建築様式と融合したムデハル様式と呼ばれる独自の建築様式を作りあげた。
テルエルの町にはムデハル芸術の名品が多い。
黄褐色のれんが造りの建物が立ち並ぶ街を見下ろすように、ムデハル様式の古い鐘楼がそびえている。
タイルやレンガによる幾何学模様の壁面や寄木の技術などがイスラム教徒からもたらされた。中でも鮮やかな緑の陶器装飾が目を引く。
テルエルは緑の町である。テルエルのシンボルカラーとなっている。
この町の陶器店が緑の陶器で一杯。
柄はイスラムの文化の幾何学模様、そこに動物を組み合わせたものが多い。
今は工房は一軒しか残っていない。
1986年にテルエルTeruel県にあるサンタ・マリア大聖堂、サン・マルティン教会、サン・ペドロ教会、エル・サルバドル教会の4ヶ所が、アラゴン州のムデハル様式建造物として世界文化遺産に登録され、その後2001年にサラゴサ県にあるカラターユのサンタ・マリア教会、サンタ・テクラ教区教会、トベドのサンタ・マリア教会、サン・パブロ教会、アルハフェリア宮殿、ラ・セオの6ヶ所も追加登録された。
この地方の気候を生かした名産品を生ハムを作る工場が町はずれにある。
白豚を使った生ハムつくりはエルエルの古くからの伝統産業になっている。
スペインで最初にブランドとして登録されたという。塩漬けの工程からおよそ2年を経て完成する。この町の伝統の味になっている。
周辺の起伏な山など緩やかな丘陵の荒野を吹き抜ける風がため、風力発電のための風車が建ち並んでいる。スペインは風力発電大国として知られているが、アメリカ、ドイツ、中国に次いで世界で4番目の発電量で、スペインの電力需要の20%以上が風力発電によって賄われているが、このエリアは中でも大きな発電所となっている。
アクセス
鉄道
マドリッドからサラゴサへは高速列車AVEで約1時間15分、
サラゴサからテルエルまでは約2時間30分、1日3便。
乗り継ぎ時間を含めると約4時間以上かかる。
バルセロナから1日3便サラゴサ乗り換え。約4時間30分、
見どころ
町の中心の、周囲にロココ様式の家が建ち並ぶトリコ(若い雄牛)広場 Plaza del Toricoは、古くからの待ち合わせ場所として使われている。
その広場の名前は、中央の円柱に置かれた小像に由来する。
ムデハル様式の塔
5本の塔がある。12世紀から16世紀にかけて、どれも3層にわけで建立が進められた。
下方はアーケードであり、ここから通りに出られるようになっている。
中央の本体は、窓がロマネスク様式で狭いために採光がきわめて悪く見つけにくいが、アラブ様式の影響を受けたれんがと陶製の寄せ木模様の装飾がある。
鐘楼は、下方は2つずつ、上方は4つずつ、数多くの窓がうがたれている。中でも最上のものは、13世紀に建てられたサン・マルティン塔 Torre San Martinとエル・サルバドルの塔 Torre del Salvadorである。
地方博物館 Museo Provincial
王宮内に置かれたこの博物館には、民族学と考古学のコレクシヨンが収集されている。
王宮のファサードは、屋根のあるバルコニーを戴いた優雅なルネサンス様式である。
地下の、かつて厩舎だった部屋には、この地方のさまざまな道具や民芸品が展示されている。中でも、鍛冶場の炉と、ゴシック様式の玄関のノッカー(15世紀)は注目に値する。
1階はすべて陶器のコレクションにあてられている。陶器は13世紀来テルエルの名を高らしめた産業のひとつである。最古のものには緑と紫の模様があり、18世紀のものには青の模様がある(アルカラの薬壺類)。
上部の階には、考古学関係の収集品が展示されている。先史時代(鉄器時代のアルコリサの剣)、イベリア時代、ローマ時代(大型投石器)、アラブ時代(11世紀のつり香炉)の品々である。
カテドラル Catedral
13世紀にムデハル様式の塔から建て始められたこの建物は、IB世紀に拡張された。17世紀には、頂塔、周歩廊、星型ボールトが付け加えられた。このボールトには、13世紀末の格天井 Artesonadoがカムフラージュされて、保存されていた。この天井は、今日では取り外されて展示されている。ムデハル様式絵画の貴重なものであり、格天井、梁、コンソール(渦形持送り)には、装飾的モチーフ、宮廷人たち、狩りの情景などが描かれている。
トランセプトの左袖廊には、15世紀に製作された聖母戴冠のレターブルが陳列されている。
2番目の帯状の部分の情景では、背景の建物が遠近法を用いて描かれており、フランドル派の影響が明らかである。祭壇のレターブル Retablo del Altar Mayorは、16世紀にガブリエル・ジョリGabriel Joliによって彫刻がほどこされている。この優れた彫刻家の彫る顔立ちは、実に毅然としたものだ。また躍動感を表現するために上半身のねじれが強調されている。
サン・ペドロ教会 Iglesia de San Pedro
18世紀に改修がほどこされたにもかかわらず、この教会には、塔と後陣にムデハル様式建築が保存されている。
この教会に付属する建物のひとつは、「テルエルの恋人たち」のための霊廟 Mausoleoとなっている。アラバスター製の2体の横臥彫像はホアン・デ・アバロスの作品(20世紀)である。墓のガラス張りの壁越しに「恋人たち」の遺骸を見ることができる。
テルエルの恋人たちの伝説
13世紀のこと。ディエゴ・デ・マルシリヤとイサベル・デ・セグラは相思相愛の仲だった。しかし、イサベルの父親はより裕福な青年に白羽の矢を立てた。名誉と富を得ようと、兵士として出征したディエゴは、5年後帰郷したが、その日はまさに、イサベルが自分のライバルと結婚するその当日だった。絶望した彼は、悲しみのあまり恋人の眼前で息を引き取り、イサベルも、翌日彼の後を追ったのである。この悲劇は多くの詩人や劇作家の創作意欲をかき立てたが、中でもティルソ・デ・モリーナTirso de Molinaの作品は特に有名である。